149号(2001・10・10)
[対文協だより]
*松前重義生誕100年・特別講演会「ソ連崩壊10年」開く
対文協・毎日新聞社主催、外務省、駐日ロシア大使館後援、㈱ナカヨ通信機、㈱望星薬局協賛の特別講演会「ソ連崩壊10年・特別講演会」が9月27日午後2時から、東京千代田区内幸町の日本プレスセンターホールで開かれた。
ロシアから招いたゲオルギー・サタロフ元大統領補佐官、セルゲイ・マルコフ・インターネット通信編集長が、約300人の参加者を前に「ソ連崩壊の世界史的意味、米国同時多発テロ発生後の世界情勢」などについてタイムリーな講演を行った。サタロフ氏はエリツイン前大統領の内政担当補佐官として活躍し、その後政治研究センター「インデム」の所長に就任、改革派の政治評論家として高く評価されている。同氏は講演で、内部からみたソ連崩壊の経緯を公表し、さらに「ソ連の崩壊は歴史的な事件だった、このような歴史の教訓として、よいことか、悪いことなどと評価できない。なぜならよいことも、悪いことも、すべてが混在しているからだ。しかし、これからの政治家はより深く歴史を見極めよいものをより多くし、悪いものを最小限にして行く努力が必要だ。二つの核超大国の対立は終わった。しかし現代は文明の病である民族。宗教戦争、テロの問題は深刻化している。世界は二極化から一極化になり、貧困、人権侵害、出口のない不満は唯一の超大国に向けられている。この超大国は、すべての責任を受け入れることを覚悟しなければならない」と米国の一極化を指摘、その上で各国が責任を分担する「多極化構造」の世界秩序構築が冷戦終結後の課題であると述べた。
マルコフ氏はカーネギー財団モスクワセンターの研究員でインターネット通信「ストラナー・ルー」編集長。プーチン大統領支持派の政治評論家として活躍している。同氏は講演で「共産主義か民主主義かというイデオロギー対立が消滅した代わりに、文明の衝突とイスラム急進主義の台頭が現われた。以前、共産主義が果たした役割をイスラム急進主義が担っている。昔は貧しい国が、共産主義の軍事的圧力で、社会主義政策をとり、医療や教育などが維持された。今日のイスラム急進主義は豊かな者が貧しい者にもっと富を渡すべきだと訴えている。そこで、世界的な社会民主主義政策が必要になる」と現状を分析した後「現在の危機は主権国家の危機でもある。主権国家は国際社会の主体だったが、重大な変化が起きた。社会や、地域が大きな力を持ち始めている」と変化の時代を指摘した。 講演のあと、毎日新聞社・飯島一孝編集委員がコーディネーターとなり、両氏がソ連崩壊の歴史的責任について討論、さらに会場からの質問に答えるなどして約3時間の白熱した特別講演会を終わった。
*サタロフ氏らを招き対文協が歓迎会食
対文協は、特別講演会に招請したゲオルギー・サタロフ氏とセルゲイ・マルコフ氏を27日午後6時から、霞が関ビル・東海大学校友会館「かもめの間」に招いて歓迎会を開いた。尾郷良幸・対文協専務理事主催で、日本側は石原萠記対文協副会長、佐藤経明同理事(横浜市立大学名誉教授)都甲岳洋前駐露大使のほか三瓶良一毎日新聞論説副委員長、飯島一孝同編集委員、加藤順一対文協事務局長が出席した。都甲前大使が日ロ関係の今後の進展を祈って乾杯、約2時間にわたって和やかな会話が続いた。
*日ロジャーナリスト会議・国際問題専門家ロシア視察代表団派遣(第9回)
9月23日成田を発ち、同30日に帰国した対文協主宰のジャーナリスト・専門家視察団は、今回は、ロシアジャーナリスト同盟とウクライナジャーナリスト同盟の招待によりモスクワとキエフを訪れた。参加者は、視察団長の小田健・日本経済新聞論説委員以下、平野裕・評論家・対文協理事、中澤孝之・長岡大学教授、斎藤哲・日本経済新聞社社友、大学講師、高山智・中部大学教授、永綱憲悟・アジア大学教授の各氏(6名)に、対文協から長島七穂事務局員が随行した。通訳は、モスクワのヴィクトル・キム氏が担当し、またキエフ行きには、ラジオ「ロシアの声」のアナウンサーでウクライナ研究をしている平野進一郎氏も視察団メンバーとして参加した。
視察団は、9月23日(土)モスクワに到着し、プログラム調整・手配に協力したラジオ「ロシアの声」の主任アナウンサ‐の日向寺康雄氏の出迎えを受け、ブダペストホテルに投宿した。翌24日(月)11時、ロシアの全般的な政治・社会情勢を知るために毎回訪れているカーネギー国際平和財団で主任研究員、リリア・シュフツォーワ女史から話を聞いた。昼食後は、かつてはソ連共産党中央執行委員で、ゴルバチョフ氏のペレストロイカの理論家として活躍した歴史学博士、アレクサンドル・ヤコブレフ氏が総裁を務める「民主主義」基金を訪れた。ヤコブレフ氏からは、現在、編集刊行中の未公開であった機密公文書の資料集について等の話を聞いた。この日はまた、ラジオ放送局「エコーモスクワ」報道部長のウラジーミル・ワルフロメーエフ氏と会見し、政府系企業による会社乗っ取り計画に対して、ラジオ局幹部は抵抗の構えでいること等を聞いた。
25日(火)午前中は、ロシア科学アカデミー、アメリカ・カナダ研究所のミハイル・ノーソフ所長と会見し、午後には、ロシア下院ビル内で、ロシア下院国際問題委員会、コンスタンチン・コサチョフ副委員長と会見した。
次いでロシアの徴兵問題の相談機関であり、軍隊における人権擁護団体、反戦平和団体の役割もになうNGO組織「ロシア兵士の母の会同盟」代表のワレンチン・メーリニコワ女史から、会の活動について話を聞いた。この日は夕食にロシアジャーナリスト同盟のボグダーノフ議長、コーディネイターのムラビヨフ氏等を招待し、ボグダーノフ氏から「ジャーナリスト=生命の危ない職業」と見なされるようになったロシアの憂うべきマスコミの現状について話を聞いた。
26日(水)には、99年秋に創設された政権党「統一」本部を訪れ、党中央執行委員会議長のセルゲイ・ポポフ氏および、広報部長ネーリ・ペトコーワ女史から「統一」党の組織や活動状況について説明を受けた。ゴルバチョフ基金と同じ建物にあるレストラン「プレジデント」での昼食の後、ゴルバチョフ基金の幹部、ヴィクトル・カヴァルディン氏と会見し、最近のゴルバチョフ氏のエネルギッシュな活動振りについて話を聞いた。
その後外務省を訪れ、アジア局次長のガルージン氏も同席する中で、対日問題を担当する外務次官、アレクサンドル・ロシュコフ氏と会見し、日ロ関係について話を聞いた。この後、ヴヌーコヴォ空港へ向かい、モスクワを発ってウクライナのキエフに入り、同市の目抜き通りに位置するホテル「クレシャーチク」に着いた。
27日(木)は午前9時過ぎにホテルを出て、ウクライナ副首相ウラジーミル・セミノジェンコ氏と会見し、ついで宗教問題国家委員会委員長のヴィクトル・ボンダレンコ氏、副委員長のニコライ・マロムージ氏等からも話を聞いた。この日はまた、ウクライナ社会党党首、アレクサンドル・モロズ氏とも会い、クチマ大統領が関与されているというゴンガーゼ記者殺害事件の真相究明や、ウクライナ政界の汚職問題について話を聞いた。昼食後はウクライナ市内見学し、作家ブルガーコフの生家博物館等を訪問した。
28日(金)は午前9時過ぎに政府庁舎を訪れ、レオニード・クラフチュク元ウクライナ大統領と1時間半近く会見し、その席でソ連邦崩壊をもたらした91年12月のロシア、ベラルーシ、ウクライナの3大統領による協議の模様など、興味深い話が披露された。その後、ウクライナ野党「バティキヴシナ」党を訪れ、つい最近まで、与党側からの嫌がらせで3ヵ月間収監され、釈放されたばかりという人気政治家ユリア・テモシェンコ女史と会見した。これについで、野党連合工作を進めている前ウクライナ副首相、政治ブロック「我がウクライナ」代表のヴィクトル・ユシェンコ氏と会見した。
昼食には、ウクライナジャーナリスト同盟議長イーゴリ・ルブチェンコ氏と2日間お世話になった、秘書のユーリー君も同席し、午後6時過ぎにキエフ発、午後8時半ごろモスクワの空港に着いた。
29日(土)には、近年は数も増え、社会的にも広く認知されるようになった私立大学のひとつ、モスクワ外国語大学を訪問し、エンマ・ヴォロダルスカヤ学長から創立の経緯や大学についての説明を聞き、その後30名余の日本語学科の学生、教授等と懇談した。レストラン「ベガ東京」で昼食し、通訳のキム氏と別れを惜しんだ後、空港への途上、トルコ系資本の大型スーパー「ラムストル」に立ち寄り、見学・買い物をした。慌しい日程を終えた視察団の一行6名は、19時15分モスクワ発のSU587便で、帰国の途についた。
*東海大ヨーロッパ学術センターで松前重義生誕100年記念式典
東海大学は9月7日、デンマーク・コペンハーゲンの同大「ヨーロッパ学術センター」で、松前重義前総長、対文協創立者の生誕100年記念式典を行った。同式典には、東海大学校友会主催の「科学の源流と文明の旅」ツアーに参加した約70名が参加、モスクワ大学のサドヴィニチイ総長と現地の来賓も加え約100名で式典を行った。参加者はまず同センター前庭にある「松前重義記念碑」にそれぞれ献花を行った。
そのあと松前達郎総長が、前総長とデンマークの係わりを語り、同センター設立の精神は「東海大学の原点である」とあいさつした。次いで元コペンハーゲン大学教授のオロフ・リディン氏、内藤昌平駐デンマーク日本大使が祝辞をのべ、レセプションに移った。
対文協からは尾郷良幸専務理事(東海大学理事)加藤順一事務局長ら多数が出席し盛大に生誕100年を祝った。
*第9回モスクワ国立音楽院・常葉短期大学セミナー開催のお知らせ
対文協が後援する音楽教育セミナーが、2002年2月21日から3月2日まで静岡市の常葉学園短期大学で開催される。今回は、ピアノの個人レッスン、公開レッスンには、モスクワ音楽院のアレクセイ・ナセトキン、ナターリア・トゥルーリの両教授と、常葉学園音楽科のアレクサンダー・セメツキ‐教授が当る。特別ゲストとして来日するヴィオラのユーリ・バシュメット氏は、公開レッスンとコンサートを行う。
(詳細問い合わせ先:〒420-0911、静岡市瀬名2-2-1、常葉学園短期大学セミナー委員会、℡/Fax:054-261-1455)
[特 集]
ロシアCIS視察「対文協専門家代表団」報告
「 プ ー チ ン 2 年 目 の ロ シ ア 」
日本対外文化協会常務理事 平野 裕
◎ 活況に賑わう北の都
◎ 強い国家を目指すプ-チン改革
◎ 冷え込んだ日ロ関係
[ロシアの新聞・雑誌から]
◇ 下 院 、 土 地 法 案 を 承 認 モスコー・トリビューン 9月21~23日
[資料]
◇ <米同時多発テロに対するロシアの対応>
◎9月11日のプーチン大統領声明(全文)