130号(2000・3・10)

[対文協だより]

*第26回研究会開く

対文協主催の第26回研究会は、モスクワ大学付属アジア・アフリカ諸国大学日本語科専任講師のエレオノーラ・サブリナ女史を講師に迎え、3月3日午後6時から虎ノ門の国立教育会館会議室で開催した。

サブリナさんは日本におけるロシア正教史を研究のため来日、研究の傍ら横浜国立大学と慶応義塾大学でロシア語の非常勤講師をつとめている。研究会は「今日のロシアとロシア正教」をテーマに、西方キリスト教とは異なるビザンチンから発した東方教会、ロシア正教の存在が今日のロシアを理解する鍵であると述べると共に、日本におけるロシア正教の秘話を披露した。講演の後、参加者からチェチェン問題など多岐にわたる質問が出され8時過ぎ閉会した。参加者35名。

*日ロ新時代に向け、国際シンポジウム開催(お知らせの項目参照)

*第27回研究会のご案内(お知らせの項目参照)

*ホームページ開設のお知らせ

[特集]

ル シ コ フ 市 長 -
「 中 傷 , 誹 謗 で は な く , 歩 み 寄 り を 」

日ロ民間交流」のロシア組織、21世紀委委員長 ルシコフ・モスクワ市長は昨年12月に再選されたが、同時に行われた下院選ではプリマコフ元首相と組んだ「祖国・全ロシア」がプーチン旋風で予想外の敗北を喫した。そのルシコフ市長がこのほど週刊紙『論拠と事実』のスタルコフ編集長のインタービューを受け、極めて率直にその胸中を語っている。

< ス イ カ の 皮 > の 災 い

--あなたの新著「ロシアの"パーキンソン法則"」を読んだ。ロシアの社会発展ぶりをユーモアたっぷりに解き明かす哲学的考察だが、モスクワはそうした一般的原則とは違うわけですね。

[ルシコフ市長] その通り。モスクワは先の市長選が示した様に独自の考えで独自の決定を行い、あれこれの事象に対応し、情報を選別した。人の意見や立場を拘束する異常心理には巻き込まれなかった。だからモスクワの状況は全ロシアとは全く違ってしまった」

--モスクワはロシアのエリート知識人、そして金融経済、軍事産業などの中心だ。その上あなたの腹心のグロモフ氏がモスクワ州知事になったのだから、あなたはこの国で事実上ナンバー2の強い人物だ。

[市長] 私は順序など考えたこともない

--市長選で70%の票しか取れなかったのは不愉快だったのでは?

[市長] 市民の70%が私を信任してくれたことに感謝している。その上、モスクワ州知事選でも私の考えが支持された。二番目の人物なんてどうでもいいことだ。

--プリマコフ氏についておたずねしたい。つい最近まで、彼は大統領候補と見られていた。しかしクレムリンは彼を嫌ったのではないか。

[市長] 私はプリマコフ氏の人柄を高く評価し、尊敬もしている。外交舞台では私より上だ。

--私はジャーナリストとして彼を知っているが、彼にはマスディアに対して、言わば<スイカの皮>みたいな態度をとる。自分の評判を気にし過ぎる。政治家としてあれは マイナスだ。プレスは国家構造の一部分でいつも計算に入れておかねばならない。

[市長] 一つだけ同意できる。プリマコフ氏は,彼に対してネガティブなプレスに反応する。彼はORT(公共テレビ)の醜悪な中傷や誹謗に反応せざるをえなかった。

--あなたの周辺にはプロの集団がいなかった。この助言は聞いてほしい。

[市長] 分かった。しかし、もう一度、プリマコフ氏に戻って、言いたい。状況はこうだった。彼は相手とチェスをしようと座った。盤上で駒の並び方は正常だった。ところが,突然、後ろからだれかが忍び寄ってきて―勝利どころか、棍棒で頭をぶん殴られたのだ。―-それが『新しい選挙戦術』というものだ。やってはいけないことだが。あなたは宣伝戦でコテンパンに負けた。何か宣伝らしいことはやったのか。

「市長] 情報チームはあることはあった。

--ヤストルジェムフスキー氏(副市長)はどうしたのですか。

[市長] あまり触れたくないことはあるが。彼はクレムリンから追われた立場にあった。

--あなたのせいで?

[市長」 おそらく私のことで。それには倫理的な側面がある。私のことで、前途有望な地位を失う人がいたら、責任を感じる。それで彼を招いて、情報、政治面の問題処理に当たってもらった。彼は積極的に活動し、外国のわれわれの仲間との関係ではよくやった。ところが選挙戦が始まった。

--うまくやれなかったようですね。

[市長] 彼は進んでPRの責任者の役割を買って出た。だが、わが船体には巨大な中傷と誹謗の高波が押し寄せた。それが彼に影響を与えたようだった。彼から積極的な動きが失われて、知的な言論戦に負けた。たとえばNTV(独立テレビ)でシャブドラスーロフ大統領府報道官との対談で明らかにやられた。彼は私とは性格が違う。いつもはテレビ人間で、頭の回転も早く、状況に即応する。ところが、あの時は生彩を欠いた。私は何度か注意をうながしたのだが。プリマコフ氏も彼に文句を言っていた。全体としてわが陣営の情報戦は勝利できるものではなかった。

人 間 と し て よ み が え る

--おかしな状況が起こっている。ORTの人身攻撃であなたは全国的に有名になった。それを利用することもできる。ただしプロのやり方で。

[市長] つらい選挙のあと、12月20日に私は行儀の良い人間としてよみがえったといえる。ドレンコ(反ルシコフのTVキャスター)やベレゾフスキー(政商)などの輩らはもう発言する権利などない。私はもっと"熟練した"チームを編成するなぞ真っ平だ。

--あなたは私の言っていることをよく理解していない。「貴方の立場」で活動するプロのチームが必要だ。大統領府は実際にあなたと和解したいと望んでいる。もちろん、彼らの条件のもとではあるが。私はプーチン氏をエリツィン氏ほどは知らない。あなたもそうだろう。あなたの方で逃げて、相手にレッテルを貼って終わりにすることもないと思う。

[市長] いま、この国では権力周辺のエリート社会で、静かな国の発展に興味を持たない強力な階層が形成されている。だれがそのことに関心をもっているか。別に気取るつもりはないが、それはルシコフだ。私はロシアが静かで、その静かな状態のなかで、都市問題や地方との相互関係を解決していきたい。ところがそれを望まない連中がいる。選挙運動中に、陰謀や対立に加担した連中は巨額の金を儲けた。もし悪質な政治集団が存在しなければ、彼らはやることはなかったはずだ。新しい資本主義も静かな生活を望んでいる。企業の経営者や資本家たちだ。石油やガスの関係者もそうだ。ここでも私は悪魔のようなベレゾフスキーを思い出す。ロシアに静けさが戻ったら、彼はなにも出来ずに正業につくだろう。いま彼は、政界で騒ぎを起こして本業の自動車やアエロフロートのことを忘れている」

大 切 な さ さ い な こ と

--ベレゾフスキーも一人のプレイヤーだ。彼はいつも綱渡りしている。そのアドレナリンなしには生きられない。どんなお説教をしてもあの勢いには勝てない。ナンバー2のあなたはナンバー1と協力すべきで、結果はあとからついてくる。

「市長] 大統領代行がそれを望んでいると確信することが大切だ。私には心中、どんな歩み寄りにでも用意がある。私は妥協の人であって、相互関係には忠実だ。しかし、いま問題なのはあれこれの政治的な衝突についての私の考え方だ。

--ちっぽけなことにいちいち反応するのは、大人物のすることではない。

[市長] そりゃ、つまらないこともあるが、原則的な問題もある。なぜ、下院で問題が先鋭化したのか。祖国・全ロシアが右派連合やヤブロコと組んだか。下院の民主的運営のためだ。ドレンコは例の調子で"とるに足らない小びとの集団"といったが、ロシア国民の30%を代表している。もし政権がこれを無視するならば、権力の悲劇だ。共産党と統一の不合理で低級な行動であんなことが起こった。私は、国内で起こっていることを見ている。二つのモスクワのラジオ局が閉鎖され、TVC(中央テレビ)にはライセンス取り消しの準備が進んでいる。ラジオ・マヤークでは新しい経営者が入り、従業員に対しルシコフの名前を番組には出すなと指示している。そんなことが、現指導部のもとで起こっている。それでも私に愛想良く微笑んで、見て見ぬ振りをして、意見は言うなというのか。

--あなたはそれにプーチン代行が直接係わっているのか、取巻きが主人を喜ばせるためにそんなことをやっているのかといった情報分析をしてみたか。ラヂオ局閉鎖の件も急いで誤った結論を下していないか。

[市長] それらのことは事実だ。加えてもう一つの疑問を提起したい。君は下院の出来事を気に入っているのかね。セレズニョフ議長を公開投票で選び、専門委員会を乗っ取るなど。

--もちろん委員会を乗っ取るのは良くない。公開投票は選択の余地をなくす。しかし議員が総退場してしまったら、ほかの方法はあっただろうか。大統領府は共産党とプリマコフが手を握ることを恐れていたそうだ。だから統一はそれを出し抜いていつか共産党と組もうと狙っていた。それが開会早々に起こったのだ。

[市長] まあ、もっとも複雑な問題に戻ろう。プーチン代行について言えば、彼がモスクワに対して好意的な態度であることは見ている。もちろん、それはうれしいし、関係を良くしていきたい。御覧の通り、私は大統領選の対立候補でもない。しかし私はプーチンのロシアがどうなって行くのか、非常に気にかかっている。

--彼もあなたを見ている。あなたは最強の首都をうまく運営している。私が思うのは、あなたが塹壕を掘るのではなく、手助けしなければならない。そうすれば、ひとびとは、プーチンとルシコフは正しい方向に進んでいると思うだろう。(論拠と事実 5号)

[ロシアの新聞・雑誌から]

 ◇プーチン代行、有権者への公開書簡。〈イズベスチヤ 2月25日〉

 ◇ロシア正教と政治〈イズベスチヤ 1月31日〉
   ◦アレクセーⅡ世、チェチェン作戦支持を声明
   ◦2人の将軍に教会の勲章を授与

 ◇大統領選立候補者決まる〈イズベスチヤ 2月22日〉

[資料]

 ◇ロシア国家院(下院)構成
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