135号(2000・8・10)

[対文協だより]

*第29回対文協研究会開く

対文協主催の第29回研究会は7月26日午後5時から、東京・霞が関ビル33階の東海大学校友会館で、「サハリンの石油開発と日本」をテーマに開かれた。対文協は今秋、サハリンで「セミナー」を開催する予定で、今回はその勉強会を兼ね、石油公団調査役、企画室長の板野和彦氏を講師に招いて、サハリンにおける石油・ガス開発の現状と将来について講義を行った。会場には会員ほか約40名が出席、熱心にメモをとるなど、サハリン開発について関心の深さを示した。
板野氏は、まず石油・ガス開発における権利、義務関係など複雑な「契約」問題について説明、1991年5月のサハリン島北東沖大陸棚の石油・天然ガス開発国際入札から、今日に至る経緯を語り、1995年に「生産物分与契約(PSA)」に調印、サハリン1サハリン2について本格的な開発が行われている現状を示した。
サハリン1プロジェクトは、チャイウォ鉱区、アルクトン・ギダ鉱区、オドプト鉱区に分かれ、現在チャイウォで6号井戸が掘られているが、全鉱区で原油は25億バーレルの埋蔵量が推定されているという。生産開始は2006年から同7年を予定、同時にガスについても、サハリンから直接に北海道を経由し本土にパイプラインを敷く計画が説明された。しかし、ガスについては、すでに日本は中東などからの供給が十分であり、パイプラインの必要性の可否などの問題点について触れられた。

またサハリン2のプロジェクトについては、ピルトン・アストフスコ鉱区ですでに生産が開始されており、2000年の生産量は1日9万バーレルで、現存の油井8本に加えて2000年中に5本の油井を掘削する予定など順調な滑り出しを印象づけた。約1時間の講演のあと、質疑に入り、原油漏れ事故対策、コスト問題などについて熱心な質疑が行われて午後7時すぎ終了した。


*2000年度対外研修基金・研修生決まる

日本対外文化協会対外研修基金による、2000年度研修生が、このほど決定した。同研修生は、日本の大学、研究機関と共同研究を行う中堅研究者を対象としたもので、今回はロシア連邦・カバルディノ・バルカル自治共和国ナリチク市出身のカバルディノ・バルカル国立大学物理学部長のムラート・ホコノフ教授(理論物理学科・42歳)が選ばれた。同教授は、理論物理学の最先端で活躍、1983年「超高速チャネリング電子の拡散と放射」理論で、モスクワ国立大学博士候補審査にパス、その後、1993年に博士論文「高エネルギーにおける結晶中の電磁プロセス」で物理数学博士となった。今回は、日本の学芸大学・物理学教室・新田英雄助教授とともに「相対論理的電子からの放射と結晶内部でのコヒーレント効果」について共同研究を行う。期間は2000年10月15日から2001年8月15日に10ヵ月を予定している。

今回の研修生応募は、国外から34件、書類選考でパスした第1次審査の対象は17件(男11名、女6名)で、ロシア4名、ウクライナ、ウズベキスタン、カザフスタン、ハンガリー、ルーマニア、スロバキア、チェコ各1名、ユーゴ4名、ポーランド2名、で、第3者を含めた審査委員会で厳重な選考を行った結果ホコノフ教授に決定した。


*サンクトペテルブルク大学・ロシア語講師来日

対文協・ロシア東欧貿易会共催で、ロシア語研修生を派遣しているサンクトペテルブルグロシア語文化センター・ロシア語講師・アンナ・トーキナさんが、対文協の招待で、7月16日に来日した。2000年度研修生への説明会、クラス分けテストなど実務を兼て来日したもので、滞在中、対文協とロ東貿で実務協議を行ったほか、17日には鎌倉見学同夕、対文協の歓迎会が開かれた。18日には京都へ日帰り旅行、21日には、都内観光や元研修生と交歓するなど、多忙な日程をおなし、22日に帰国した。

[特集]

 「大統領、上院改革の攻防を制す」

プーチン大統領が5月中旬、議会に提出した上院改革など3法案は、7月26日、上院が屈服してその内2法案承認に踏み切ったことにより決着を見た。しかし、この上下両院を舞台に繰り広げられた攻防は今後のロシア政局に波紋を残しそうである。


◇ 上院の自殺。議員たちは自滅の道を選んだ

 連邦会議(上院)は26日、ドゥーマ(下院)と合意した法案「連邦会議構成の手続き」 を採択した。これで大統領提案は第三の地方自治法案を除いて、近く、大統領による一括 署名を待つばかりになった。しかし、上下両院の審議というイバラの道を通過する間に、 原案はかなり「肉をそがれて」しまった。大統領自身がいくつかの修正は不可避と述べたためである。その修正が加えられるかどうかは別にして新法案は、2002年1月1日までの移行期間を経て後、完全に発効する。クレムリン(大統領府)の電撃作戦は「塹壕戦」に持ち込まれた。改革を進めるために、大統領は国家評議会、または憲法会議の創設と下院の改革に取り組まねばならない。その代わり、クレムリンはもっと重要な、もう一つの結果、つまり26日の法案採決が示すように、上院の野党精神を風化させる成果を得た。

 プーチン三法案は、1.上院改革(州知事・共和国大統領など地方首長と地方議会議長が自動的に上院議員になる現行制度の廃止)2.連邦大統領による地方首長解任権と地方議会解散権 3.地方自治(さらに下部の市長や地域議会に対する解任、解散権)から成っている。下院は早々と圧倒的多数で全法案を承認したが、上院が否決、差し戻されて両院の調停委員会を設置するなど紛糾していた。

 第三の地方自治法案については、前日の25日にプーチン大統領がストローエフ上院議長との話し合いで、上院の完全な承認が得られない間は署名しないと約束、また州知事が管轄下の市長解任権を持つことに大統領が前向きの態度であるとのストローエフ議長の感触が伝えられ、上院の空気は変わり、議員たちは討議を打ち切って、妥協の道を選んだ。

 この結果、上院は2002年までに議員交代が行われる。しかし、ルシコフ議員(モスクワ市長)は「問題は議員交代ではなく、上院自体が全く変質することだ」と述べ、さらに「新しい上院は存在の必要性を失う。そんな権威のない機関は廃止した方がよい。これまでの上院の機能の一部は国家評議会(新設)に移す憲法改正が行われよう。それは大統領への権力集中を意味する」と語っている。上院は26日、下院と大統領府による一院化の動きに対して、フョードロフ・チュワシ共和国大統領の提案を採択、「憲法会議」法案で対抗することもありうると警告を発した。

(この項、セヴォードニヤ7月27日)


◇ 全権力を国家評議会に。但しまだ名称だけ

 プーチン大統領は28日、上院が「集団的自殺」を決めてから3日後、国家評議会とい う新権力機関の設置を示唆した。しかし、それは名前以外まだ何も決まっていない。大統領はその構想を支持して、法的地位や構成などをさらに詰めるように求めている。

 同構想については、すでに8日、大統領が「大統領直属の国家評議会」創設案が浮上した時に好意的な反応を示していた。しかし、それに対する上院の反応は、形式的な譲歩という認識以上に喧々囂々たるものだった。ストローエフ議長などは「大統領が直属機関の人選をするのは自由だが、宇宙飛行士でも選ぶのか」と言った。しかし、大統領の方は州知事たちが上院議員の地位を失い、中央政界から遠ざけられることへの埋め合わせのための即効薬として考えている。

 イズベスチヤ紙の得た情報では、クレムリンは国家評議会に15-16人の地方首長を加えることを考えているというが、地方首長の方は全員参加を望んでいる。上院議員側の総意は、それがたんなる諮問機関では無意味で、広範な権限を持ち、事実上、議会の上位に位置付けられることを提案している。トレーエフ・ケメロボ州知事は「それは憲法機関であるべきで、その決定はすべてに及ばねばならない」と主張する。しかし、クレムリンは上院を国家評議会に変えるために、上院改革を行っているのではない。秋ごろまで上下両院の提案を検討するとの姿勢で、しばらく時間かせぎをするだろう。

(この項、イズベスチヤ7月29日)


◇ プーチンは下院を支持勢力に変えた

 第3国家ドゥーマ(下院)の春季会期を見る限り、今後は「親クレムリンの下院」とい う表現がますますピッタリしそうである。昨年12月の下院選後、下院での政府支持基盤は、選挙で大勝した第2の政党「統一」だった。右派勢力連合もプーチン人気に便乗して議席を増やし、大統領と政府の絶対的同盟者になった。そのほか小選挙区で中央権力支持の立場によって勝利した「人民議員」グループも親クレムリン派に加わった。

 しかし、下院の勢力地図は今会期の冒頭から変化した。主要ポストの配分をめぐって、第1党の共産党と「統一」が組み、セレズニョフ議長(共産党)を選出したことは、民主各派に衝撃を与えた。この新事態に対して右派勢力連合、ヤブロコ、それに「祖国・全ロシア」が前記の大連合に対して少数派に転落するのを嫌って、総会会場から全員引き揚げて抗議した。結局、彼等もまた大連合が残した主要ポストのおこぼれに預かった。当時、多くの専門家は、状況は深刻で、正常化は困難と分析した。しかし間もなく、平和的に収まったのだが、右派勢力連合は大統領との関係を完全に修復したわけではなかった。右派リーダーはその後、大統領支持の条件として、民主主義的権利と個人の自由保障を主張し始めた。

 野党にもまた、全く違った形の変化が起こった。「祖国・全ロシア」は戦意を喪失した。元同党員のモロゾフ議員の「ロシア地域」グループも同じだった。最近、クレムリン提出の法案に対する両派の投票ぶりを観察すると、つねに賛成に回っていて、事実上、少数派が多数派に合流したことを示している。共産党が大統領法案をつねに支持し、たとえば、上院改革法案には88人中70人という圧倒的多数が賛成票を投じたのは注目を引いた。

 現下院が大統領と政府に対し、かってない忠誠を示していることは数字が物語る。セレズニョフ議長は今会期を振り返って、政府が以前より積極的に法案を提出するようになったと述べた。過去の議会では下院審議にかかる政府法案は40%に過ぎなかったが、今会期はグンと増えた。同議長は理想的には85-90%が大統領と政府の提案で占められることだという。クレムリンとホワイトハウス(政府)との「有益な共同作業」の増大は、行政権力が下院との協力を正常化したことを示している。連邦中央権力は今後、いかなる立法に際しても、たんなる政治的動機のみで妨害される恐れはなくなった。こんなことはエリツィン前大統領も、その首相たちもかって想像だにしなかった。エリツィン時代の末期、下院には前大統領支持者はいなかったとセレズニョフ議長は言う。状況は一変した。プーチン大統領は自らの会派だけでなく、他の会派からの好感も集めている。

 しかしながら、大統領に対する忠誠心の顕著な現れは、その一連の連邦体制強化法案への対応だった。同法案をめぐって上下両院の間に繰り広げられたこの1ヶ月にわたる戦いは下院の圧倒的多数派と大統領の連合を可能にした。この点でクレムリンの計算はしたたかだった。下院からの支持は、上院からの非難にも拘わらず、改革の必要性を確信させるものだった。しかも州知事たちの下院議員への圧力は逆効果だった。それはおそらく、下院が次第に自らが「窮極の立法機関」であり、自立独立した権力機関であるという自覚を持ち始めたからだろう。しかし、それはあくまで下院が内部結束して、大統領と対立しないという条件のもとでの話である。今総会の閉会前夜、下院が税制と予算の修正法案の採決に際して、政府との完全な合意に達したことで、そのことは今一度示された。

 このような状況は、下院に侮辱された形の上院議員にはおもしろいはずがない。上院議員たちが今度は下院改革問題で、下院と一戦を交えるのではないか。そんなうわさが上院から流れている。下院議員たちはクレムリンが多数派政党システムの育成のために、比例代表選で配分比率に手を加えることを恐れている。だが、それがクレムリンの意に沿うものであるかどうかは疑問である。プーチン大統領自身は、正常な市民社会とは政党の育成、権力に対抗できる強力な政党なしには成り立たないと繰り返し述べている。その一方で、政党の活動は最高立法機関の代議員なくしては不可能である。それについては、ウォローシン大統領府長官が下院各会派代表との会合で確認している。下院と大統領府は「立法活動がまだ不充分」という問題で話し合い、今後はもっと緊密に連携し、定期的に会合、これに副首相も交えることなどで合意した。このように下院は、ベレゾフスキー議員の言葉によれば「行政権力の一法律部局」になってしまった。大統領と政府による急激な改革の現段階では行政と立法の緊密な相互関係は不可欠であろうが、それは議会の役割低下、さらには議会制度そのものをも危険にさらし、民主政治にきわめて悪い影響を与えかねない。

(この項、独立新聞7月21日)

[ロシアの新聞・雑誌から]

 ◇プーチン大統領、財界代表と会う (コムソモリスカヤ・プラウダ 7月29日)

 ◇ロシア軍は国防相と参謀総長をうしなうかも (セヴォードニヤ 7月28日)

 ◇ロシアは老人の国 (イズベスチヤ 7月10日)

 ◇語学の専門家が不足 (イズベスチヤ 7月14日)

 ◇1万人のボディーガード (論拠と事実 29号)

 ◇貯蓄銀行の数が少なくなる (イズベスチヤ 7月31日)