131号(2000・4・15)

[対文協だより]

*対文協ホームページ開く

4月1日からホームページを開設しました。内容は対文協の歩みにはじまり、活動内容各種情報、お知らせなどで、外務省、日ロ交流協会、東海大学、日本ロシア語情報図書館、ロシア大使館ともリンクしています。

ロシア情報については随時差し替え、新しい情報の提供に務めます。ご利用下さい。
ホームページ: http://www.taibunkyo.com


* 日露シンポジウム、訪日メンバー決まる

5月12日札幌市で開催する「日露国際シンポジウム」(毎日新聞社・日本対外文化協会共催)のロシア側のパネラーが次の3氏に決まり、5月10日に来日する。

[代表団]*ミハイル・ザドルノフ(下院議員・元蔵相)/*ボリス・ネムツォフ(下院議員・元第一副首相)/*ヴィターリイ・トレチャコフ(独立新聞編集長)


* 第27回研究会開く

対文協主催の第27回研究会は「ロシアが目指す国家主義とは何か」をテーマに4月5日午後六時から、霞が関ビル・東海大学校友会館で開催した。講師は対文協理事で横浜市立大学名誉教授の佐藤経明氏で、大統領に当選したプーチンが目指すロシアの行方について、経済学者の立場から約1時間多角的分析に基づいた講演をした。

講演の後、フロアからの質問を中心に意見を交換、熱気のある研究会となり8時前閉会した。参加者55名。(講演要旨・特集参照)


* 中国社会経済文化交流協会と交流

鈴木博理事(東海大学教授)を団長に曽田成則理事ほかによる対文協代表団が3月5日から7日間中国を訪問、中国社会経済文化交流協会との交流を行なった。5日は同協会を訪問、張永年秘書長と王維明理事・国際部主任と会談、文化催事を含めた今後の交流について意見を交換した。6日は北京芸術博物館を訪問、侯明副館長との間で所蔵品の日本公開について協議、午後は、中国人民政治協商会議の馬儀・経済委員会常務副主任と会見したほか中国シリコンバレーを視察した。

代表団は北京のほか広州などを視察、12日に帰国した。


訃  永井 道雄顧問死去

対文協顧問で、元文相の永井道雄氏が3月17日午後11時37分、呼吸不全のため死去。77歳。同氏は1987年(昭62年)1月、対文協の顧問に就任、以来関係各国との教育交流、研修生交流について見識を賜るなど協会の運営活動にご尽力をいただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

なお葬儀・告別式は23日午後1時から新宿区の千日谷会堂で行なわれ、対文協からも会長以下役員多数が参列しました。

[新刊紹介]

◇「コサックのロシア」-戦う民族主義の先兵    植田 樹 著
(中央公論新社刊・定価本体2200円)

いま、巨大な戦士集団コサックがロシアに復活しつつある。それはやがて、ロシアの民族主義と排外主義の中心となってくる。そして、彼らは北方領土返還反対の急先鋒となるにちがいない。--と、著者は主張する。

この特異な集団の生成・変転とロシア巨大帝国の発展の歴史からチェチェン紛争、プーチン大統領登場の現在まで、本書は骨太に描く。ロシアの今後の方向と本質を見抜く上で新しい視角を開いた必読の本である。

[特集]

「ロシアが目指す国家主義とは何か」(第27回研究会要旨)
    横浜市立大学名誉教授      佐藤 経明氏

[ロシアの新聞・雑誌から]

 ◇マスハードフ、後方撹乱と戦争長期化を予告〈モムソモリスカヤ・プラウダ 3月18日〉

 ◇コルジャコフ下院議員、「新しいKGBが必要だ」〈論拠と事実 10号〉

 ◇近年、大学生の就職事情〈イズベスチヤ 3月10日〉

 ◇学校教育に変化-初等軍事教練の復活〈イズベスチヤ 2月5日〉

 ◇時代の変化に対応できるか


サドーヴニチイ総長・モスクワ大学の現状を語る 〈論拠と事実 12号〉

ヴィクトル アントーノヴィッチ サドーヴニチイ ロシア科学アカデミー会員がこの8年間モスクワ国立大学の総長を務めている。この間時代も変わり、若者たちの考え方も変わった。以下はサドーヴニチイ総長へのインタビューの抜粋である。

[総長] 1991-1993年は学生たちは知識を得ることを軽々しく考えていた。売店や町の儲け仕事を通して道が開けると考え、モスクワ大学の競争率はさがった。すでに学んでいた学生も友達が洗車や、菓子売りで稼いでいるし、大学で得ることは何もないとやめて行った。しかし1994-1996年は気運が急激に変わった。

-- それは、おそらく8月の金融危機の影響だろう。モスクワではまず最初にリストラにされたのが、卒業証書を持たない若者たちだったから。

[総長] それに売店でも人が余っていた。本来の基本的知識はしかるべき経歴をつくっていくものだ。今はモス大学の入学競争率は過去50年間でもっとも高く、まだ延びつづけている。

-- 世紀が変わる今地球上に新しい世代が現われている。この新しい世代はそれ以前の世代とどう違っているのか。

[総長] 戦後の私の世代の若者は、学問から最大限学び取ろうということに目的を置いていた。自然科学者や物理学者になること、科学的新発見をすると言った風に。しかし新世代は良い。進歩的だし、人生の見方が少し違っているし、私たちの世代よりずっと楽観的だ。大事なのは新しい急速な変化に順応できることだ。今我々はその変化の境目に立っているのだから。

-- またもや境目。何がおこっているのか。

[総長] 情報時代から急速にポスト情報の時代にはいってしまったことに我々は気がついてもない。ほんの5年前にはインターネットがどういう物か知らなかったが、今では小学生も使いこなしている。新しいテクノロジーが出現するのは必然的だ。しかし人間自体はゆっくりと変化している。我々の脳は何万年経ようとも大きさはそのままだ。変化しているのは時代と社会の要求に対する人間の対応だ。時代や社会が提起する課題が複雑であればあるほど、若者はより適応していき、進化していく。だから3年後に大学へ入って来る若者たちはもう今の若者たちとは違っている。

-- 今日の若者たちは、携帯を持ち、外車にのって通学してくる、といった感じだ。それも両親に買ってもらうのではなく、自分が稼いだ金で買っている。この年齢ですでに稼ぐことを学んだということをどう考えるか。

[総長] そういう学生は確かにいる。しかしモス大での割合はそう多くはない。この年代は学ぶべきであって、稼ぐべきではないと考える。

-- では一体誰に金を出してもらうのか。

[総長] 奨学金では十分でないことはわかる。生活するためにはアルバイトをしてもいい。しかしまずは学問、その次に生活のための稼ぎという順番だ。さかさまであってはならない。外車を買う、マンションを買う、そして勉強であってはならない。学び取ることが出来るのは、大学のわずか5年間だけである。

-- モス大の奨学金はいくらか。

[総長] 160ルーブル。教師の平均給与は1500ルーブルでモスクワの最低賃金以下、総長の給料は1800ルーブル。教師が大勢出国していった時期があった。10%が出国した。しかし若い教師で楽に穴埋めができた。大学院には5千人おり、後継者もいる。アメリカやドイツにはプログラミストの職が何百とあり、これからも若い人たちの外国流失は増えるだろう。プログラミストとは、数学であり、国家の知能だ。若い人の知能がテクノロジーのレベルを上げる、つまり彼らを有する国がポスト情報時代のリーダーとなるのだ。今や新たなテクノロジーの時代に入ろうとしている。これまではミリメートル、ミクロン、秒といった単位で測っていたが、今は1エレクトロンがメモリーの単位だ。先進国でさえどの国もこのテクノロジーを自分のものにしているというわけではない。- では我々ならその問題に応えることが出来るのか。

[総長] どの道を選ぶかによる。先進国にあるテクノロジーを受け売りするのであれば、いつになっても追い付けない。いま世界ではスーパーコンピュータをめぐって競争が起こっている。アメリカではこれが優先課題だ。我々はそんな強力なコンピューターは作ることは出来ないがその代わりそのコンピューターのためのプログラムを作る能力は持っている。これなら世界を追い越すことが出来る。

-- モスクワではいま高等教育機関ならみなユニバーシティと称しているが、妨げにならないのか。

[総長] なっている。商売がたきという意味ではない。我々のところは競争率も高いし、真の教育を受けたい人も大勢いる。しかし新しいユニバーシティは全体的な教育の質を低下させている。高等教育の切り下げが起こっている。

-- では中等教育はどうか。

[総長] 中等教育のレベルが平均して下がった。原因は以前に存在していた厳しい規範や規格が欠如していることにある。教科書も一定していないし、内容が悪い時もある。カリキュラムも不統一だ。こうしたことがシステム全体を揺がせている。中等学校の学力は、普通大学受験生に望む学力よりも低いと感じている。

-- つまり、入学試験のレベルも低くなるということか。

[総長] 決してそんなことはない。他の方法で対処している。大学受験準備センターを開設し、学力コンクールや出張試験もおこなっている。

-- 学生は政治好きか。モス大は学生をどんな政治色に染めたいと思っているのか。

[総長] 大学内では政治討論を行っていない。大学は、教育を施すために創られており、誰が赤で誰が緑かを明らかにするところではない。しかしもちろん個々の学生は自分の態度を明確にしているし、学生はノンポリだと思うことも正しくない。しかし最近の政府やプーチンの行動が学生の気分に確実に反映している。国家、国民の尊厳は学生にとって身近であり、大事な問題だ。

-- 9月1日の入学式、試験、休み、入試と毎年毎年同じことの繰り返しで総長であることは退屈ではないか。

[総長] 何かしら新しいことを考え出している。CISの大学シンポジウム、オープンカレッジ、ローマクラブ。6月の卒業式はにぎやかでいろいろな催しが伴う。

-- しかし、他の人は休暇をとっているのに夏休みがなくなってしまう。モス大では入試だ。受験者の両親から逃れてどこへ行くのか。

[総長] 確かに夏はもっとも大変な時期だ。入試にずっと付き合い、その後すぐに新学年の準備にとりかかる。受験生の両親から逃れるためには郊外へいく。